Exhibition Report · Tokyo · March 2026
渋谷のギャラリーで、
ベニテングタケとクワガタを展示した話
Boji hair+gallery · Tokyo
Lucanus cervus · Fiurdelin · BUG Exhibition, Boji hair+gallery, 東京 2026
2026年3月、東京・渋谷のBoji hair+galleryで開かれた展示に、Fiurdelinのボタニカルアートがふたつ同時に選ばれた。キノコの惑星(B1フロア)と、BUG Exhibition(2Fフロア)——同じ建物の、別々の部屋に。ギャラリーマネージャーのMinwuから両方の承認メッセージが届いたとき、私は画面を見直した。
2026年3月21日から29日、渋谷のBoji hair+galleryで開催されたキノコの惑星とBUG Exhibitionに、イタリアの博物画家FiurdelinのAmanita muscaria(ベニテングタケ)とLucanus cervus(ヨーロッパオオクワガタ)が同時展示された。
| ギャラリー | Boji hair+gallery(渋谷、東京) |
| 展示名 | キノコの惑星 Mushroom Planet (B1) · BUG Exhibition (2F) |
| 会期 | 2026年3月21日〜29日(休廊:3月25日) |
| 入場料 | 無料 |
| 出品作品 | Amanita muscaria · Lucanus cervus |
| アーティスト | Fiurdelin(イタリア) |
Boji hair+galleryという場所
Boji hair+galleryは、渋谷のなかでも静かな存在感を持つスペースだ。同じ建物にヘアサロンとギャラリーが共存しているという事実が、すでにこの場所の哲学を語っている——美しさとアートは別々のものではない、という確信。展示の組み方もその哲学に忠実だ。公募で集めた大量の作品を並べるのではなく、テーマを絞り、作品を選び、ひとつの部屋に意味のある配置をつくる。毎回、丁寧に。
ギャラリーマネージャーのMinwuとBoji hair+galleryのチームがやっていることは、作品を「置く」ことではなく、作品を「属させる」ことだと思う。2026年3月は、キノコと虫というふたつのテーマで、同時に展示が進行した。B1フロアにはキノコの惑星、2FにはBUG Exhibition。どちらかに選んでいただくだけでも光栄だった。両方に、同じ週に、別々の部屋で——それは計画してできることではない。本当にありがとうございました、と、ここに書いておきたい。
キノコの惑星 · Mushroom Planet
BUG Exhibition · visual by @kitaoojitsukasa
ベニテングタケを描くということ
Amanita muscaria
Amanita muscariaは、おそらく世界でもっとも多く描かれたキノコだ。赤い傘に白い斑点——その姿は世界中のポップカルチャーに繰り返し消費されてきた。だからこそ、描くときに気をつけなければならないことがある。見慣れたイメージをなぞるのではなく、生きものとして正直に向き合うこと。
私のAmanita muscariaには、成熟した株と小さな幼株が一緒に描いてある。根元にはツボ(volva)の膨らみ、柄には部分ベール(partial veil)の名残。これらは飾りではなく、Amanita属を他の種から区別するための構造的な特徴だ。博物画として正確であるということは、こういう細部を省かないということだ。
見慣れたイメージをなぞるのではなく、生きものとして正直に向き合うこと——それだけを考えた。
Amanita muscaria · キノコの惑星 · Boji hair+gallery, 東京, 2026年3月 · Photo: @minwu_7167
菌類はかつて植物学の範疇で扱われていた。博物画家たちも、植物を描く文脈でキノコを描いてきた歴史がある。キノコの惑星という展示のなかで、その伝統から来た絵がどう見えるか——銀色のフレームに収まったAmanitaの絵が渋谷の壁に掛かっている光景は、私にとっても初めての体験だった。
ヨーロッパオオクワガタ、2Fの部屋で
Lucanus cervus
BUG Exhibitionが開かれた2Fフロアは、B1とは違う空気があった。昆虫のキチン質と複眼が似合う、少し暗く、グラフィカルな光の空間。私のLucanus cervus(ヨーロッパオオクワガタ)は、黒いフレームに収まって、そこに掛かっていた。
Lucanus cervusは、17世紀から欧州の博物画の定番題材だ。大顎の構造——それがこの種の名前の由来であり、描き手が必ず向き合う課題でもある。大顎はシルエットとして読み取りやすい。しかし内側の歯の形状、頭部との比率、関節の配置——そこまで正確に描こうとすると、資料を広げて長い時間がかかる。
Lucanus cervus · BUG Exhibition · Boji hair+gallery, 渋谷, 2026年3月 · Photo: @minwu_7167
翅鞘(elytra)の深みのある栗色、前胸部の暗い緑の光沢、脚の跗節(tarsus)の棘の配列。昆虫博物画における色は、装飾ではなく情報だ。Lucanus cervus固有の色彩パターンは、近縁種との識別に使われる特徴であり、絵のなかで正確に記録される必要がある。
同じ建物の、ふたつの部屋に
菌類の展示と昆虫の展示——主題はまったく違う。しかし、どちらの作品も同じ方法論から生まれている。生きものの構造を理解し、それを正直に記録するという博物画の仕事。B1とF2、ベニテングタケとクワガタ。それが同じ建物の、同じ週に、別々の部屋に並んだ。
ボタニカルアートの歴史はヨーロッパを中心に語られることが多いが、日本には独自の博物画の伝統がある——浮世絵から始まり、二十世紀の精緻な科学図版へと続く、世界でも類を見ない観察の系譜。Boji hair+galleryがイタリアの博物画家の作品を選んだのは、その交差点に何かを見つけたからだと、私は信じたい。その出会いをつくってくれたMinwuとBoji hair+galleryのチームに、心から感謝している。
Boji hair+galleryの展示スケジュールはいつも見応えがある。渋谷に行く機会があれば、ぜひ立ち寄ってほしい。入場は無料だ。Instagram (@boji_hands_) もフォローしておいて損はない——東京のアートシーンの中でも、特に丁寧にキュレーションされたフィードのひとつだと思う。
Fiurdelinの制作の背景にある哲学と、ヨーロッパ博物画の歴史的文脈については、書籍The Living Canvasにまとめている。科学と美術の境界で描くことの意味を、歴史的な図版とともにたどった一冊だ。渋谷の壁に掛かったあの絵と、同じ場所から生まれている。
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About the Gallery
Boji hair+gallery
東京・渋谷を拠点とする独立系アートギャラリー。ヘアサロンと同じ建物内で展示を行うという、ユニークな空間だ。B1から2Fにかけて複数のフロアを使い、テーマを絞った企画展を継続的に開催している。入場は常に無料。キュレーションの誠実さと、作品への向き合い方が、このギャラリーを特別にしている。
Fiurdelinはここに作品を置けたことを、誇りに思い、感謝している。
boji-hair-gallery.com · 展示スケジュール · @boji_hands_ · Gallery manager: @minwu_7167
よくある質問
Boji hair+galleryはどのようなギャラリーですか
渋谷にあるアートスペースで、ヘアサロンと同じ建物内で運営されています。B1と2Fの複数フロアを使い、テーマを明確に絞った企画展を定期的に開催しています。入場は無料で、東京のインディペンデントアートシーンで独自の存在感を持つギャラリーです。
今回の展示にはどのような作品が出品されましたか
キノコの惑星(B1フロア)にはAmanita muscaria(ベニテングタケ)の博物画を、BUG Exhibition(2Fフロア)にはLucanus cervus(ヨーロッパオオクワガタ)の昆虫博物画を出品しました。会期は2026年3月21日から29日(3月25日休廊)です。
ボタニカルアートと一般的な自然をモチーフにした絵の違いは何ですか
ボタニカルアート(博物画)は、生きものの形態を科学的に正確に記録することを目的とします。ボタニカルアートとは何かについては、botanical.artで詳しく解説しています。
今回の展示作品はプリントで入手できますか
はい。Amanita muscariaとLucanus cervusはどちらもFiurdelinのコレクションでプリントとして購入できます。今回東京で展示されたものと同じ作品です。